こんにちは、be a lawyer代表のたまっち先生です。
今回は、最近Twitterでも話題に挙がっている事実の法的評価の方法について簡単に解説させていただきます
予備試験、司法試験いずれとも、規範を立てるだけでは合格ラインを超えることはできず、ご自身が定立した規範に対して、問題文の事実をあてはめることができてはじめて合格圏内に入ることができます。そのため、予備試験、司法試験いずれに関しても、「事実の法的評価」が実質的な合格ラインとなっているということができます。
では、「事実」を「法的」に「評価」するとはどのようなことをいうのでしょうか。
具体例を見た方が分かりやすいと思いますので、具体例をご紹介します。
【事例】 甲がVの背後からロープで力いっぱい同人の首を絞めた。
上記事例は、令和元年予備試験の刑法の一部の事実を抜粋したものです。
【法的評価が不十分な答案例】
「甲は、甲がVの背後からロープで力いっぱい同人の首を絞めており、人が死亡する現実的危険性が高い行為を行ったといえ、殺人罪の実行行為性が認められる。」
一見それっぽい答案に見えますよね。
でも、私が採点官だとしたら、上記の答案にはほとんど点数を与えないと思います。なぜなら、本記事のテーマである「事実の法的評価」が全くできていないからです。
分かりやすく上記の答案を分解してみましょう。
「甲は、甲がVの背後からロープで力いっぱい同人の首を絞めており、」(事実)
「人が死亡する現実的危険性が高い行為を行ったといえ、殺人罪の実行行為性が認められる。」(結論)
上記の答案はこのように分解することができます。このように分解して考えれば、上記の答案に全く法的な評価が示されていないことが一目瞭然だと思います。問題文の事実を拾って、直ちに結論を示してしまっており、甲がVの背後から同人の首を力いっぱいロープで締める行為がなぜ人が死亡する現実的な危険性がある行為といえるのかという部分の説明ができていないわけです。殺人の実行行為性が認められるためには、当然人が死亡する「現実的な危険性」が要求されますから、一般的抽象的に危険だしもしかしたら人が死ぬかもね、程度の危険性では足りません。だとすると、なぜ一般的抽象的なレベルを超えて、「現実的な危険性」があるといえるのか、この部分は必ず答案に示したいところです。
では、次に法的評価が概ね出来ている答案を見ていきましょう。
【法的評価が出来ている答案例】
「甲はVの首を絞めているところ(事実)、人が首という人体の枢要部を絞められば呼吸困難を生じて死亡する危険性がある(評価)。また、甲はVの背後から首を絞めており(事実)、正面から首を絞められる場合に比して同人の抵抗が非常に困難である(評価)。また、甲はロープを用いて力いっぱい同人の首を絞めているから(事実)、素手で首を締める場合に比して相当程度強度が高く、窒息を生じるまでの時間も短かったと考えられる(評価)。
以上からすれば、甲の上記行為はVを死亡させる現実的な危険性を有する行為といえ、殺人罪の実行行為が認められる。
説明のため、あえてわざとらしく評価を加えてますが、本番ではこれほど丁寧にする必要はありません。
もっとも、このくらい丁寧な法的評価をする姿勢を受験生の皆様には持っていただきたいです。
本問の事実として着目して欲しいのは、主に3つです。
① 甲がVの首を絞めていること(攻撃対象部位の重要性)
② 甲が背後からVに対して①を行ったこと(攻撃態様の悪質性)
③ 甲がロープを用いて力いっぱい①を行ったこと(攻撃態様の強度性)
まず、①に関して説明すると、人が首を絞められれば呼吸ができないということは誰でも知っていることであり、この部分の評価はそれほど難しくはないでしょう。
②については、指摘できていない受験生が多い点ですが、正面から首を絞められるとすれば、例えば、甲の顔面を殴る、甲の体を蹴りつけるなどしてVは抵抗をすることが期待できたかもしれません。他方、背後から首を絞められてしまうと、正面の場合に比して甲の身体へ抵抗行為を加えることが難しいといえるでしょう。
最後に③については、素手に比して武器?といえるかは怪しいですが、道具を用いていることはやはり絶対に落とせない事実です。また、軽く絞めているのではなく力いっぱいという部分も落としたくありません。予備試験、司法試験のいずれに関しても無駄な事実は存在しない、と言われることがあります。「力いっぱい」という事実も出題者があえて設定した事実ですから、絶対に拾うように意識しましょう。そして、道具を用いて、かつ、力いっぱい首を絞めているという事実は、素手で軽く首を絞めた場合に比して、人を死亡させる危険性が高いことはいうまでもありません。
いかがでしたでしょうか。
事実の法的評価をテーマに簡単ではありますが、解説させていただきました。
本記事を通じて少しでも「法律って面白いな」、と感じてもらえれば幸いです。
このような解説記事を今後もアップしていきたいと思います。
なお、私が所属するbe a lawyerでは、予備試験・司法試験受験生向けに個別指導、過去問添削、論証集の販売を行っております。本記事のテーマである「事実の法的評価」について学びたいという方、過去問添削をご希望される方は、ぜひご利用ください。
受験生の皆様が一人でも多く法曹界に来られることを楽しみにしております。
頑張ってください!